舐める様に這わせて土方は硬い靴を鳴らした。
表では若者のバカ騒ぎする声や未だ帰路に着かぬ者達の声が行き交っている。
その裏で密かに気配を殺す者。
行く先は何処だろうか。通りの者は彼の存在は気付かない。

そんな男は路地にて、ひとりごちた。
フン、同じ道か、――と。

そして男はその暗闇を利用して苦虫を潰す。
――まったく、好き勝手いいやがって。
これがどうして同じ道なのだ・・・と。

昨晩、宵の明けに珍しく姿を見せた表にて。
隊が長年追跡している攘夷志士・桂小太郎に会った。
相手はまさかこんな時間土方に会うことを予想だにしていなかったように目を見開いたが、その男が驚いた顔を見せたのはそれきりだった。
滅多に己の感情を見せぬ、この男こそ長年我が新撰組が何年も執拗に粘ってもその尾すら掴めない。
逃げの小太郎と呼ばれている者だ。

けれど土方はその時感情を動かしはしなかった。普段であればその神経を尖らせて荒々しい。
それは、陽の出でるときにだけ見せている顔。
土方の周りには、土方ひとりだ。目を反らし桂の横を通り過ぎようとさえして、その時の投げられた言葉がそれ、だった。

「鬼の副長とも呼ばれる者が、なんという・・・いや、それは昼の顔だけか。」

この含みある嘲笑が、あの男を感じさせた。
あの時代の男たちはどいつも皆同じらしい・・・。
こんな時思い出すのは癪だが、あの銀髪の男といい、こいつといい、そして“奴”だ。
こいつらは確か昔の馴染みであったはずだから、育ちは一緒だったな。
こいつらを育てた松陽ってのはそんなに達が悪かったのか、それとも人を欺くのが美味いか、、、。

「どうした?いつも五月蝿い貴様にしては大人しいな。それともその牙が取れたとでも?フッ、そんなわけはあるま――」
「あ?ンなんじゃねぇ・・・今は非番なだけだ。・・・・」
「ほぅ、では私を捕まえず、見逃すというのだな。・・・いいのか。チャンスを無にして。まあ俺は貴様の意見などどうでもいいが。」
「逃げる?ってか。まあ、それもいい案だろうな」

「・・・・・・」土方の応えに一瞬桂の口が黙る。
「なんだ?早く行かないのか?それとも、行けない理由があるとでも??」

土方のあっさりとした返事に違和感が生じたのか桂は訝しげに彼をみた。
けれども表情ひとつ変えぬ男に(おやおや、これは・・・。)と好奇の目をむけた。
なにやらそれでこの男なりに気付いたものがあるらしい。さすがは逃げてもその名が世間に通る男である。

「ほぅ、貴様・・・“それでいて”真選組の副長なんぞをまだ名乗っているのか。・・・まあ俺には所詮関係のない事だが。」

関係のないことならどうして煽る必要があるのか、と土方は胸中にまたひとりごちる。

このときはもう土方の背後にはあの男がいること、
このときのこの男の心情は彼であり既に“彼”ではなかった。

それに気付いていた桂は、分かっていながらそれでも尚、彼を攻めた。
ともに理解を深めることはなく、常に敵同士であるのは変わらないのではあったが、しかし桂はその場から立ち去ることはなく代わりにこんなに風変わりなことを吐いた。

「貴様がどうしてこんな人気のつかぬ時間帯を選び、俺と同じ道を使っているか。俺にはわかってしまったわけだが ・・・・」

「・・・?」

「・・・見逃してくれるお礼、といっては貴様の名誉とやらが汚れるやもしれないが、・・・いやそこまで俺に言わせるとは。・・・いや、貴様は既に、それなんだろう?」

そう言い残し、桂は土方の前から立ち去った。


――俺を見逃してくれるなら・・・・。

今宵、鍵は開けておく。・・・と。





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