そして、吸い寄せられるようにして男の元へ・・・。
気付いた時にはその胸にと抱かれていた。
男は思っていたよりも狡猾だった。 何もいうな、という目をしてその口は桂の唇に触れた。
ーッ・・・
何物にも変えられないその刹那が溢れる。恋焦がれてしまうような熱さだった。

まさか、・・・これが、このオレが、欲しがっていたものなのか?
少しだけ触れたそれは粉雪の儚さかそれとも、幻か。消えてはなくなるそんな刹那を、望んでいたのだろうか?・・欲していたのだろうか?
けれどそれを許してしまったあの時から、この胸の疼きがとめどない。
堕ちてもいいなどとも思っていた。しかしなんだというのかこの靄のかかった感情は。これを表現するものは、オレの知っている言葉で表すことができるのだろうか?

この穢れを早く落とすべきなのだろう。しかしそれを知っていて、私は、それを否定する事ができないでいる。
今まさにこの男に抱えられているというのに、それを振り落とすこともできぬのだ。

桂はふいにあげてしまった自分の甘美に恥じて我を思い、一瞬顔を伏せた。
しかし土方はそんな桂を強引に向かせると、艶色で染めた桂の首筋をなぞる様、舌で愛撫していく。
その容姿は普段とはまったく別人の優男になっていた。
まるで蕩けるようなその舌でゆっくりとその曲線に沿って這わせていき、そのまま下へと感じさせるかのように普段その男には想像できないくらい優しく何度も擦りつけてくる。

――あ、・・・くっ、・・・ン

――ここ、弱いのか?

思わず出てしまった二度目の媚声が、男の期待を持たせてしまったのか、より深く更に高く熟れた声を引き出そうとして愛撫の数も増えて行く。
意地悪く問われても、答えを待ってはくれはしない。
普段なら答えてやるどころか蹴りあげ砂をつけて返し、さらには毒までお見舞いしてやるのが彼らの間柄であるのに
こんな熟れるほど余裕のない甘い誘惑など知るはずもない。
ましてや桂自身がそれを望んでいた、などと自身でも信じがたいのだと今この瞬間でも思っていることなのに。

それでも・・・・、
それでも、この妙に甘ったるくて、時さえたつのを忘れるほどに土方との関係を躯が求め始めていた。
ふいに媚色を帯びた声を出してしまったことさえ自覚のないことや、この淫らに堕ちて行く、その危機さえも感じられず、それでいて桂のその両手はしかりと土方の胸を掴んで離せなかった。


・・・目の前で女が泣いている。・・・あれは、確か、過去の、・・・。
乳母の記憶だろうかと考えてはみたものの、そんな記憶は既に削がれた後であった。
それならば、と考えて実母か?と思ってみたものの、土方にはそんな記憶すら一切なく
彼の元へ近寄ってきた色女共の顔を覚えている限りで見渡してもどこにも女の面影はなかった。
その女の顔をあげさせて、は、と我に還った土方は、(なんだ。)と一人胸にごちた。

――“これは”今しがた俺が堕としてやった女じゃないか。
泣く、ではなくただの色女になっただけの。
普段は尖った態度しか示さないが、鼻で笑って流してやりたいほどに、どうやら軽くおさまってくれたらしい。
まあここまで一筋縄でいかなかった分を思えば、『女』にしては随分とかかったようにも思えるが。

だがこれは女といっても狐であるから、今俺にこんな風に媚びていてもきっとこの月が陽に代わる頃にはきっと
元に戻っているに違いない。
所詮、狐は狐なのだ。
でもまあこのときだけは騙されてやってもいいが。

そう胸の中にごちて決して表には出さぬように、と我を決してからというもの
土方はその尖った角も鬼のような形相も削ぎ落としてしまったかのような男になり桂に接した。

桂がどう思っていようが土方にはどうでもよいことだった。
たとえ自分に堕ちていようが堕ちなかろうが、これはただの愉悦という戯れに過ぎないのだ。
そんなこと当にこの男も知っているのだろう。
だからこうして、こんな俺だとわかっていながらその関係もこんな戯言に腰を落とし大人しく、狐であることを隠して人間の女の振りをすることもすべてわかっている。

俺も表向きでは言えないような関係をいくつか持っているし、ある程度の修羅場を掻い潜ってきているのは
この桂とて同じことなのだ。
そもそも高杉との関係を既にこの男に知られているのだ、まさかこんな関係が本気であると思うとか、どうかしている。
桂がどう思っているかなんてのはどうでもいい。まさかこの俺に抱かれたいと思っているとしても
それはそのときの流れで抱きもするし、ただの関係だけで終わることだ。

(・・・やはり、俺には――。)


土方は桂を胸に抱き、その白い首筋に自分の痕をつけながらも、あの男に抱かれる時を想った。
自分もこうされているあの瞬間(とき)は、なにものにも返られはしないのだ、と。






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